『パパとクロウ』 |
パパは、特別でもない外出や家での食事にクロウを誘う。外食もする。買い物も行く。ウォーキングもする。 昨日は桜の話をした。けれど遠くではなくて、地元の桜。 会うたびに、クロウは喉がカラカラになるまで喋る。 クロウは、物心つく前から酷く寂しかった。ママは働いていて、それから病気になって入院すると、クロウはグランマに育てられ、ママの実家で過ごすこともあった。 クロウの家は少し複雑で、クロウとグランマは血が繋がっていない。けれどクロウはグランマが大好きで、ママがちょっぴり嫉妬していたことをクロウは知っていた。 ママは病気で体が不自由になって、幼稚園の運動会でのダンスはシスターと踊った。幼稚園へは、クロウのアンクルが送ってくれた。 小学生の運動会は、クロウのアントと一緒に走った。その時のお弁当も、アントが作ってくれた。 クロウにはそれが当たり前で楽しかったけれど、夜はちょっと泣いた。 クロウはパパが怖くて嫌いで、大人になってからは、家を出るまでは2人になるとほとんど話をしなかった。離れてすぐも、あまりコミュニケーションをとらなかった。 ちゃんと親子になったのは、パパが病気になってから。パパが変わって、クロウは初めてパパを家族だと思った。 クロウは昨日、忘れていた市場への社会科見学の日を思いだして、パパに伝えた。それは父兄参加で、パパもママも出られなかったクロウは、休みたかったこと。夜、布団の中でボロボロ泣いたこと。 パパは数秒黙って「それは、寂しい思いをさせたね」とつぶやいた。パパは、何度もその市場へクロウを誘ったけれど、クロウが頑なに行きたがらない理由もわかった。 クロウは「うん。でも、仕方のないことだよ」と笑った。 クロウとパパは、昔できなかったことを取り戻そうとしている。社会科見学で行った市場へも、2人で行こうと約束した。 |
10.03.18 |