『』
この地位を築くために、僕は犠牲を惜しまなかった。今でもそれを後悔する事はない。返り血を浴びても、その血を舐めて僕は笑った。敵の死は、雨となって僕の地位を今以上に高く確かな物に変える。


言葉も通じない、小さな国を手に入れるのはとてもたやすい事だ。その中に、どんな勇者がいたとしても、僕を傷つける事など、僕にその剣先を向ける事など、出来やしない。
それは思い過ごしだったらしい。


薄っぺらな、簡素な鎧を纏った一人の男が、僕に剣を向けた。僕は剣を掲げ、彼の体を貫く時の感覚を思いながら笑みを零した。叫びながら、彼が駆け寄る。僕は彼の胸を目掛けて深々と剣先を沈めた。
錯覚だったんだろうか。彼が躊躇った気がした。錯覚だったんだろうか。彼が自ら剣先に飛び込んだ気がした。
ドサリと、重たい音が聞こえる。ゴトリと、亀裂から鎧が壊れる。大きな咳と一緒に、彼は血を吐いた。その目は、僕の顔をじっと見つめている。
そして何か呟いた。彼は泣いていた。動かなくなった手が、ゆっくりと白くなっていく。
それでも、頬を伝う涙の痕は消えない。死体の山の中で、彼だけが誇らしく見えた。


言葉も通じない、小さな国を手に入れるのはとてもたやすい事だった。この地位を築くために、僕は犠牲を惜しまなかった。今でもそれを、悔やむ事はない。返り血を浴びても、その血を舐めて僕は笑った。敵の死は、雨となって僕の地位を今以上に高く確かな物に変える。
それなのに。
彼の涙が忘れられない。彼の最後の言葉が、わからない。
わかりたい。
祖国を思う気持ちか。祖国を奪われる恨み言か。家族を思う気持ちか。家族を殺された恨み言か。苦しみのうめきだったのかもしれない。


迷う事はなかったはずだ。言葉も通じない、小さな国を手に入れるのはとてもたやすい事だ。
この地位を築くために、僕は犠牲を惜しまなかった。今でもそれを、悔やむ事はない。
ドサリと、重たい音が耳から離れない。ゴトリと、鎧が脱げた後の彼は、ただの人だった。彼の血の色が、今でも目に焼きついている。あの視線が、僕を追い詰める。
何か呟いた。彼は泣いていた。動かなくなった手が、ゆっくりと白くなっていく。それでも、頬を伝う涙の痕は消えない。死体の山の中で、彼だけが誇らしく見えた。




猛々しく、そして血に飢えた王よ。
あなたがもし、王でなければ、
私達は友人になれたかも知れない。




05.1.26