『』
ブランコの鎖で挟んでしまった指先の、血豆に針を刺す。ティッシュで覆って握ると、プッという感覚とともに赤く染まった。


記憶の中ではブルーに近い水辺。絆創膏の臭いが嫌いだった。
失うように心がけた未来が鮮明に輝きだして、落ちぶれるように退化する感情。どうでもいいことが海馬に刻まれて明け方に蘇る。
ブランコなんて何年も乗っていないし、あの浮遊が嫌いだし、地に足がつかない不安は現実だけでいい。血豆なんて今や出来る機会もない。生理以外で自分の血液を見る機会も減った。それが、大人になるということか。
転んで膝をすり剥くようなエネルギーも、塀から飛び降りるような無茶も、用水路の縁を歩くような挑戦も、しなくなった。安定がとても魅力的で、けれど、なかなか結果に繋げないバンドを未だに続けている彼も尊敬できる。どっちつかずのわたし。
シーソーより自由で、ブランコより不自由で、雲より曖昧で、虹より具体的。
声を出して泣きたい夜があって、その日が彼の誕生日であったり私の命日なのかもしれないなんて考えるけど私はまだ生きているし、彼もまた存在していない。
それはまるで結末のない物語の堂々巡りで、ページをめくるのは指先ではなく生ぬるい風なんだろう。




06.6.20