『それぞれの』
未来が輝いて見えていたのは、いつまでだっただろう。地面を這うのも空を飛ぶのも、怖くて仕方がないなんて、なにもしないうちに覚えた。
「歌うのは好きだけど、歌い続けるのは悲しいね」とほほえんだ女の隣には、札束を捨てる男。「お金で手に入らないものがあるんだ」とうずくまって泣いた。札束を拾って男に手渡し、何が言えるのか。歌うたいにはギターを渡そう。君の声を聴かせてほしいと。
さっきまで小さな舞台で踊っていたプリマドンナは引退間近。つぶれたつま先を撫でながら「醜いでしょう?」とつぶやいた。そのつま先に口づける私を見て笑ってくれるかい。
作業を止めた描きかけのカンバスの代わり、私の頬に涙を描いてほしい。




06.1.28