『ゆるやかな自害』
布団をのけたら、足下で鳴いた。そこで寝てたのね。気づかなかったわ、ゴロゴロ喉鳴らす毛玉。いつのまに覚えたの、頑張ればハシゴものぼれるだなんて。偉いのね、あなたは何でも知ってる。舌を出せば撫でてもらえるとか、爪を立てても優しく窘められるだけとか、わがままも許されるとか。でもね、煩いから大人しくしていて。傷んだカシスと一緒に袋に詰めるわよ。


室温は4度。オイルヒーターはタイマーで切れていたのね。喉が渇いたから、林檎を食べる。昔、ママが教えてくれたの。林檎の皮にはワックスがついてて、消毒もたくさんしているからしっかり洗わなきゃだめなんだって。だからそのまま食べるわ。ちょっとくらいの悪いものなら、怖くないもの。それに今更よ。わたしは煙草を吸うし、夜更かしもする。一日中、日光を浴びない日もあるの。林檎のワックスや消毒くらいでつべこべ言わないで、ママ。
今すぐは嫌だけど、死ぬのは全然怖くないの。いずれ死ぬって知ってるから、それが明日来たとしてもかまわないわ。こんな広い部屋だもの。隅に死体が転がっていたって邪魔じゃないでしょう。




05.12.25